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長野地方裁判所諏訪支部 昭和61年(ワ)120号 判決 1991年3月07日

昭和六一年(ワ)第一二〇号事件原告・

本間恵子

平成二年(ワ)第一一〇号事件被告

昭和六一年(ワ)第一二〇号事件原告・

今井京子

平成二年(ワ)第一一〇号事件被告

昭和六一年(ワ)第一二〇号事件原告・

林亜矢子

平成二年(ワ)第一一〇号事件被告

右三名訴訟代理人弁護士

木嶋日出夫

毛利正道

菊地一二

松村文夫

林豊太郎

昭和六一年(ワ)第一二〇号事件被告・

株式会社みくに工業

平成二年(ワ)第一一〇号事件原告

右代表者代表取締役

林義郎

右訴訟代理人弁護士

小林直人

主文

一  昭和六一年(ワ)第一二〇号事件につき

1  被告株式会社みくに工業は、原告本間恵子に対し金一〇一三万九二〇三円、原告今井京子に対し金八一一万〇九二二円、原告林亜矢子に対し金一三六万九七三三円及び右各金員に対する昭和六一年一〇月一〇日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  平成二年(ワ)第一一〇号事件につき

原告株式会社みくに工業の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を昭和六一年(ワ)第一二〇号事件被告・平成二年(ワ)第一一〇号事件原告株式会社みくに工業の負担とし、その余を昭和六一年(ワ)第一二〇号事件原告・平成二年(ワ)第一一〇号事件被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項1記載の認容金額につき、各二分の一の限度において、仮に執行することができる。

事実

(以下、昭和六一年(ワ)第一二〇号事件原告・平成二年(ワ)第一一〇号事件被告本間恵子、同今井京子、同林亜矢子を、「原告本間」、「原告今井」、「原告林」と、昭和六一年(ワ)第一二〇号事件被告・平成二年(ワ)第一一〇号事件原告を「被告」とそれぞれ略称する。)

第一当事者の求めた裁判

(昭和六一年(ワ)第一二〇号事件)

一  請求の趣旨

1  被告は、原告本間に対し金一八六八万七五二六円、原告今井に対し金一八六〇万八六一五円、原告林に対し金一六五万二九二二円及び右各金員に対する昭和六一年一〇月一〇日(訴状送達の日の翌日)から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

(三)  仮執行免脱宣言

2  原告らは、平成二年七月一七日の本件口頭弁論期日において、民法七〇九条、七一五条に基づく損害賠償請求の訴えの追加的変更を申立て、かつ、請求を拡張したが、右訴えの変更は、請求の基礎に同一性がなく、また著しく訴訟手続を遅滞させるものであるから、民事訴訟法二三二条一項に違反し許されない。

(平成二年(ワ)第一一〇号事件)

一  請求の趣旨

被告は、債務不履行に基づく損害賠償債務として、原告本間に対し金三七九万三一二〇円、原告今井に対し金三一三万八一七九円、原告林に対し金一四五万二九二二円及び各金員に対する昭和六一年一〇月一〇日から各完済に至るまで年五分の割合による金員の支払義務はないことを確認する。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文二項同旨

第二当事者の主張

(昭和六一年(ワ)第一二〇号事件)

一  請求原因

1  当事者

被告は、時計部品等を製造する株式会社であり、原告らは、岡谷市に所在した訴外有限会社加納製作所(以下「加納製作所」という。)に勤務する労働者であった。

2  労災事故の発生

(一) 加納製作所は、昭和五七年五月から同五九年三月二六日までの間、被告から腕時計針の印刷加工の発注を受け、その業務を従業員であった原告らに従事させた。

(二) 右印刷業務は、腕時計の針の中心線をインクで印刷するものであるが、右業務においては、インク汚れを落とすなどのためにノルマルヘキサンを主成分(九七パーセント以上)とする有機溶剤(A―ベンジン)を使用していた。

(三) 昭和五九年二月ころから、原告らは、ノルマルヘキサン吸引を原因とする多発神経炎にかかりはじめた。

(1) 原告本間は、多発神経炎により、昭和五九年三月六日から同年四月一七日まで及び同年五月一六日から同年九月一九日まで諏訪湖畔病院で入院加療を受け、以降現在に至るまで同病院に通院している。

発症時の症状は、両足に力が入らなくなり、トイレでしゃがむと立てなくなってしまったり、歩行困難となったりするものであったが、その後も、四肢遠位の軽い感覚障害、四肢深部反射の低下、四肢遠位筋力低下、易疲労性、労作により増悪する四肢の不定な痛み、しびれ、めまいがあり、現在稼働することは不可能な状態である。

(2) 原告今井は多発神経炎により、昭和五九年四月二日から諏訪湖畔病院に通院した後、同月一四日から同年八月一八日まで同病院で入院加療を受け、以降現在に至るまで同病院に通院している。

発症時及びその後の症状は、原告本間と同様であり、現在稼働することは不可能な状態である。

(3) 原告林は、多発神経炎により、昭和五九年四月七日から諏訪湖畔病院に通院した後、同月一一日から同年五月四日まで及び同月一七日から同年六月二二日まで同病院で入院加療を受け、以降同年一二月四日まで同病院に通院した。

発症時の症状は、原告本間と同様であったが、その後の回復が早く、現在は労働に従事している。

(四) 岡谷労働基準監督署は、昭和五九年七月三〇日、原告らの疾病について業務上疾病と認定し、労働者災害補償保険法の適用を決定した。

3  被告の責任

(一) 第一次的主張―民法七〇九条に基づく不法行為責任

(1) A―ベンジンの主成分であるノルマルヘキサンは、有機溶剤中毒予防規則(以下「予防規則」という。)により人体に対し有毒な有機溶剤に指定されており、その取扱いについて労働安全衛生法(以下「法」という。)を始めとする各種労働者保護法規によって厳格な基準が定められている。すなわち、ノルマルヘキサンは第二種有機溶剤と指定されているが(予防規則)、事業者は、屋内作業場等において第二種有機溶剤業務に労働者を従事させるときは、当該有機溶剤業務を行う作業場所に、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備又は局所排気装置を設けること(予防規則五条)、労働者を常時就業させる屋内作業場の気積を、設備の占める容積及び床面から四メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者一人について一〇立方メートル以上とすること(労働安全衛生規則六〇〇条)、第二種有機溶剤業務に常時従事させる労働者に対し、六か月以内ごとに一回、定期に医師の健康診断を受けさせること(法六六条二項、労働安全衛生法施行令二二条一項六号)、ノルマルヘキサンに係る有機溶剤を使用して有害な作業を行う屋内作業場で、必要な作業環境測定を行い、その結果を記録しておくこと(法六五条一項、右施行令二一条一〇号、予防規則二八条二項)、有機溶剤作業主任者技能講習を終了した者のうちから有機溶剤作業主任者を選任して、予防規則に定める事項を行わせること(法一四条、予防規則一九条二項、一九条の二)が義務づけられている。

(2) ところで、法三条三項には、「仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を付さないように配慮しなければならない。」と定められていること、被告は、日本を代表する株式会社諏訪精工舎の企業グループの一員として、諏訪地方における優良企業の一つに数えられており、加納製作所が零細企業であることを考慮すると、発注者である被告に課せられる注意義務は重いものであること、有機溶剤を用いての腕時計針の印刷業務については、被告は昭和三九年以来の経験があるのに対し、加納製作所は、本件下請けをするまでは有機溶剤を使用する業務を行ったことはなく、その知識も経験もなかったのであるから、被告は、ノルマルヘキサンについての知識、対応策などを十分指導すべきであったこと、本件印刷業務の遂行に必要な一切の機械器具、備品、治工具、A―ベンジン、インクは、従前被告において用いられていたそのままの状態で、一括して無償で貸与、支給されたものであり、被告から加納製作所に対しては、毎日仕事内容の指示が出され、指導員も出向いていたことからすると、同製作所における本件印刷業務は、実質的には被告の業務の一部分と評価できることなどからすると、被告は、加納製作所で本件印刷業務に従事する労働者がノルマルヘキサンによって中毒症状を起こすことのないよう、同製作所が法及び前記規則等に違反しないように必要な指示や指導をなすべき社会生活上の注意義務があったものというべきである。

しかるに被告は、ノルマルヘキサンを九七パーセント以上含有している商品のA―ベンジンという名称にまぎらわされて、使用する溶剤が労働諸法令によって、その強い毒性のために厳格に規制されているノルマルヘキサンであることに気付かないなどの重大な過失によってこれを怠り、必要な指示や指導をほとんどなさないまま推移した。

(3) そのため、加納製作所においては、使用溶剤の有毒性やこれに対する対策の必要性の認識を欠落させたまま、<1>印刷作業台毎に設けるべき局所排気装置を全く設置しなかった、<2>労働者一人について一〇立方メートル以上の空間(気積)を確保しなかった、<3>六か月に一回行うべき健康診断を全く実施しなかった、<4>六か月に一回行うべきノルマルヘキサン濃度の測定を全く実施しなかった、<5>被告から請け負った業務に関して、有機溶剤作業主任者を選任したことも、作業主任者に予防規則上の諸義務を履行させることもなかったなどの法及びこれに基づく諸規則に反する事態を作出、継続させたため、原告らはノルマルヘキサンによる中毒症を患ったのであるから、被告は、民法七〇九条により、原告らが被った損害を賠償すべき義務がある。

(二) 第二次的主張―民法七一五条に基づく不法行為責任

被告が加納製作所に本件印刷業務を請け負わせるについては、被告の小泉製造部長、有賀業務部長が同製作所と折衝をし、高山忠志製造課長、宮下信一外注担当係が同製作所の役員及び労働者に作業や技術の指導をしている。右四名は、右業務を請け負わせるにつき、同製作所の労働者がノルマルヘキサンによる中毒症になることのないよう、同製作所に対して毒性の知識と対応策などについて必要な指導をなすべきであったにもかかわらず、重大な過失によってこれを著しく怠ったものである。

また、昭和五八年九月中旬ころ同製作所が新工場に移転した際、当時、被告の外注指導員として毎週同製作所に出向いていた三沢泰夫は、右中毒症の発生防止措置につき必要な指示をなすべきであったのに、重大な過失によりこれを怠ったものである。

これら五名の被告従業員の業務遂行中における不法行為によって原告らの本件疾病が発生したのであるから、使用者である被告は、民法七一五条により、原告らが被った損害を賠償すべき義務がある。

(三) 第三次的主張―債務不履行責任

被告は、本件印刷業務を加納製作所に請け負わせるにつき、右業務に必要な機械器具、備品、治工具、A―ベンジン、インクを無償で貸与、支給し、昭和五七年三月二三日から同年四月末日までの間、同製作所の業務部長加納達美他五名を被告工場内に招集して右業務を実習指導した。

右のような関係にある被告は、下請会社である加納製作所の従業員である原告らに対して安全保護責任があるものというべきところ、A―ベンジンの取扱い上の注意事項や人体に及ぼす影響についてほとんど指導しなかった。

被告の右債務不履行により原告らの本件疾病が発生したのであるから、被告は、原告らが被った損害を賠償すべき義務がある。

4  原告らの損害

(一) 原告本間 金一八六八万七五二六円

(1) 休業損害 金一二五一万七五二六円

イ 原告本間は、昭和五九年二月当時、日額金三三一八円の賃金を加納製作所より得ていたが、本件疾病により稼働することができなくなった同年三月六日以降同製作所を解雇された同年五月末日までの賃金合計金二八万八六六六円の支払いを受けていない。

ロ 原告本間は、昭和五九年六月一日以降現在に至るまで、本件疾病によって労務に服することができない状態で無職である。

よって、原告本間と同年令の全女子労働者平均賃金(各年の賃金センサスによる)によって昭和五九年六月一日から平成二年三月三一日までの逸出利益を算出すると、合計金一五三五万一三三三円となる。

ハ 原告本間は、右休業に対応する期間、労働者災害補償保険法によって合計三一二万二四七三円の給付を受けている。

(2) 慰謝料 金四〇〇万円

原告本間は、現在まで入・通院を余儀なくされており、精神的苦痛に対する慰謝料としては四〇〇万円が相当である。

(3) 入院雑費 金一七万円

原告本間は一七〇日間入院したが、入院雑費は一日当たり金一〇〇〇円が相当である。

(4) 弁護士費用 金二〇〇万円

原告本間は本件訴訟代理人に対し、着手金及び成功報酬として金二〇〇万円の支払いを約した。

(二) 原告今井 金一八六〇万八六一五円

(1) 休業損害 金一二四八万二六一五円

イ 原告今井は、昭和五九年三月当時、日額金二八〇八円の賃金を加納製作所より得ていたが、本件疾病により稼働することができなくなった同年四月二日以降同製作所を解雇された同年五月三一日までの賃金合計金一六万八四八〇円の支払いを受けていない。

ロ 原告今井は、昭和五九年六月一日以降現在に至るまで、本件疾病によって労務に服することができない状態で無職である。

よって、原告今井と同年令の全女子労働者平均賃金によって昭和五九年六月一日から平成二年三月三一日までの逸出利益を算出すると、合計金一五三五万一三三三円となる。

ハ 原告今井は、右休業に対応する期間、労働者災害補償保険法によって合計金三〇三万七一九八円の給付を受けている。

(2) 慰謝料 金四〇〇万円

原告今井は、現在に至るまで入・通院を余儀なくされており、精神的苦痛に対する慰謝料としては四〇〇万円が相当である。

(3) 入院雑費 金一二万六〇〇〇円

原告今井は一二五日間入院したが、入院雑費は一日当たり金一〇〇〇円が相当である。

(4) 弁護士費用 金二〇〇万円

原告今井は本件訴訟代理人に対し、着手金及び成功報酬として金二〇〇万円の支払いを約した。

(三) 原告林 金一六五万二九二二円

(1) 休業損害 金一九万二九二二円

原告林は、昭和五九年三月当時、日額金三九八六円の賃金を加納製作所より得ていたが、本件疾患により同年四月七日から同年一二月四日まで稼働することができなかった。同原告は、労働者災害補償保険法により右賃金の八〇パーセントの給付を受けているので、休業損害は標記金額になる。

(2) 慰謝料 金一二〇万円

原告林は、前記の入・通院を余儀なくされており、精神的苦痛に対する慰謝料としては一二〇万円が相当である。

(3) 入院雑費 金六万円

原告林は六〇日間入院したが、入院雑費は一日当たり金一〇〇〇円が相当である。

(4) 弁護士費用 金二〇万円

原告林は本件訴訟代理人に対し、着手金及び成功報酬として金二〇万円の支払いを約した。

5  よって、原告らは被告に対し、請求の趣旨1項記載の損害賠償金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)、(二)、(四)の事実は認める。

同2(三)の事実は不知。

3  同3(一)(1)は認める。

同3(一)(2)のうち、被告が加納製作所に対し、機械器具、備品、治工具、A―ベンジン、インクを無償で貸与、支給したことは認めるが、その余は争う。

同3(一)(3)の事実は不知。被告が民法七〇九条により、原告らが被った損害を賠償すべき義務がある旨の主張は争う。

被告は、本件印刷業務を発注するに当たり、(住所略)に所在した加納製作所を視察し、その工場(以下「旧工場」という。)を第二種有機溶剤業務の作業環境に適応できるものと認めて、同工場を本件印刷業務の作業場にすることを取り決めたのであるが、加納製作所は、被告に無断で、昭和五八年九月ころ、同市長地四六九三番地一所在の工場(以下「新工場」という。)に移転し、同所で本件印刷業務を行うようになった。

ところで、旧工場では原告らが主張する多発神経炎は発生しておらず、新工場に移転後六か月を経過して発病者が出ていることからすると、移転後の作業環境の悪化が発病の原因であるものというべく、原告らの発病について被告に責任はない。

同3(二)は争う。

同3(三)のうち、被告が加納製作所に対し、機械器具等を貸与、支給したこと、実習指導したことは認めるが、その余は争う。

4  同4は争う。

(平成二年(ワ)第一一〇号事件)

一  請求原因

原告らの訴えの変更は、民事訴訟法二三二条一項に違反し許されないから、原告らの請求は、訴え変更前のもの、すなわち、債務不履行に基づく損害賠償として、被告に対し、原告本間は金三七九万三一二〇円、原告今井は金三一三万八一七九円、原告林は金一四五万二九二二円及び右各金員に対する昭和六一年一〇月一〇日(訴状送達の日の翌日)から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金員の支払いを求めるものに限られるものというべきところ、被告は右各金員の支払義務はないので、その確認を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因は争う。

第三証拠関係(略)

理由

第一昭和六一年(ワ)第一二〇号事件

一  原告らの訴え変更の申立てについて

原告らは、平成二年七月一七日の本件口頭弁論期日において、従前の債務不履行に基づく損害賠償請求(請求金額は、原告本間が金三七九万三一二〇円、原告今井が金三一三万八一七九円、原告林が金一四五万二九二二円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日から各完済まで年五分の割合による遅延損害金員)を民法七〇九条、七一五条に基づく損害賠償請求(請求金額は請求の趣旨1項記載のとおり)に追加的に変更する旨申し立てた。

民事訴訟法二三二条一項の訴えの変更は、当初の訴えによっては紛争の実質的解決に至らないような場合に、従前の審理の結果をそのまま利用しながら請求または請求の原因を変更することが訴訟経済に合致することから認められた制度である。したがって、同項にいう請求の基礎の同一性とは、新旧両請求の間で、主要事実の全部または重要な部分が共通するなどして、請求の基盤となる利益紛争関係が同一とみられ、そのため、旧請求の審理をそのまま継続利用して新請求を審理の対象とすることを合理的ならしめる程度に、新旧両請求の事実資料に一体的な密着性がある場合をいうものと解するのが相当である。

本件における原告らの債務不履行に基づく損害賠償請求の請求原因事実は、本件印刷業務を加納製作所に請け負わせるについて、被告は同製作所に対し、機械器具、備品、A―ベンジン等を無償で貸与、支給し、実習指導したのであるから、同製作所の従業員である原告らに対して安全保護責任があるのに、被告は、A―ベンジンの取扱い上の注意事項や人体に及ぼす影響についてほとんど指導しなかったため本件疾病が発生したのであるから、被告は原告らの被った損害を賠償すべきであるというものである。

一方、追加的変更の申立てにかかる民法七〇九条、七一五条に基づく損害賠償請求において原告らの主張するところは、加納製作所と右のような関係にある被告若しくは業務指導等を担当した被告の従業員としては、同製作所に対し、本件印刷業務に従事する従業員がノルマルヘキサンによる中毒症状を起こすことのないよう、同製作所が法及び予防規則等に違反しないように必要な指示や指導をなすべき注意義務があったのに重大な過失によりこれを怠ったため、同製作所をして法及び予防規則等に違反する事態を作出、継続させたことにより本件疾病が発生したのであるから、被告は原告らが被った損害を賠償すべきであるというものである。

したがって、新旧両請求の主要な争点は、被告(その従業員を含めて)は加納製作所に対し、同製作所の従業員がノルマルヘキサンによる中毒症状を起こすことのないように必要な指示、指導をなすべき注意義務があったか否か、被告は右注意義務を尽くしたか否か及び原告らの損害額の点に存するものというべきところ、本件訴え変更の申立てのあるまで、原告ら及び被告は、右の点に関して主張、立証を尽くしていたのであるから、旧訴において提出された攻撃防禦の方法等の事実資料は新訴においても直ちに利用できるものである。

以上によれば、両請求は、審理を継続して行うことを合理的ならしめるに足りる一体的な密着性を有するものということができるから、変更申立てにかかる不法行為に基づく損害賠償請求及び請求の拡張は、当初の債務不履行に基づく損害賠償請求と請求の基礎を同一にするものというべきである。

また、審理の経過に鑑み、本件訴えの変更は本件訴訟手続を著しく遅滞させるものでもない。

よって、原告らの訴えの変更は適法である。

二  当事者

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

三  労災事故の発生

1  加納製作所は、昭和五七年五月から同五九年三月二六日までの間、被告から腕時計針の印刷加工の発注を受け、その業務を従業員であった原告らに従事させたこと、右業務は、腕時計の針の中心線をインク印刷するものであるが、インク汚れを落とすなどのためにノルマルヘキサンを主成分(九七パーセント以上)とする有機溶剤(A―ベンジン)を使用していたことは当事者間に争いがない。

2  成立に争いがない(証拠略)の結果によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一) 原告本間は、昭和五七年九月から本件印刷業務に従事したが、同五九年二月ころからノルマルヘキサン吸引による多発神経炎に罹患し、同年三月六日から同年四月一七日まで及び同年五月一六日から同年九月一九日まで諏訪湖畔病院に入院して加療を受け(その間の同年四月一七日から同年五月一六日までは信州大学附属病院に精査目的のため入院)、退院後現在に至るまで、一か月に八、九日程度諏訪湖畔病院に通院している。

入院時の症状は、両上肢抹消の筋力低下、両下肢の中等度の筋力低下、両上・下肢に手袋靴下型の痛覚鈍麻、上下肢の腱反射の消失、歩行不能というものであったが、退院後の昭和六一年七月二五日の診断時においても、四肢遠位の軽い感覚障害、四肢深部反射の低下、四肢遠位筋力低下、易疲労性、労作により増悪する四肢の不定な痛み、しびれ、めまいの症状がみられた。

現在も何か支えがないと長時間立っていることができず、少し長い距離の歩行、階段の昇降、中腰での作業等にも支障があり、稼働することは困難な状態である。

(二) 原告今井は、昭和五八年一二月から本件印刷業務に従事したが、同五九年三月中旬ころからノルマルヘキサン吸引による多発神経炎に罹患し、同年四月二日から諏訪湖畔病院に通院後、同月一四日から同年八月一八日まで同病院に入院して加療を受け、退院後現在に至るまで、一か月に八、九日程度同病院に通院している。

入院時、退院後及び現在の症状は、原告本間とほぼ同様であって、現在も稼働することは困難な状態である。

(三) 原告林は、昭和五七年五月から本件印刷業務に従事したが、同五九年三月ころからノルマルヘキサン吸引による多発神経炎に罹患し、同年四月七日から諏訪湖畔病院に通院後、同月一一日から同年五月四日まで及び同月一七日から同年六月二二日まで同病院に入院して加療を受け(その間の同年五月四日から同月一七日までは信州大学附属病院に精査目的のため入院)、退院後同年一二月四日まで諏訪湖畔病院に通院した。

入院時の症状は、原告本間とほぼ同様であったが、その後の回復が早く、現在は手のしびれを感じるときはあるが、労働に支障はない状態である。

3  岡谷労働基準監督署は、昭和五九年七月三〇日、原告らの疾病について業務上疾病と認定し、労働者災害補償保険法の適用を決定したことは当事者間に争いがない。

四  被告の責任

1  A―ベンジンの主成分であるノルマルヘキサンは、予防規則によって人体に対し有害な第二種有機溶剤に指定されており、その取扱いについては、法を始めとする各種労働者保護法規によって厳格な基準が定められており、事業者は、請求原因3(一)(1)記載の内容の措置を講ずることが義務づけられていることは当事者間に争いがない。

2(一)  (証拠略)の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 被告は、工作機械類の製造、時計部品製造加工業等を目的とする資本金三〇〇〇万円の会社であるが、昭和三九年五月以降現在に至るまで、訴外株式会社諏訪精工舎からノルマルヘキサンを使用する業務である腕時計針の印刷業務を受注してきた。

(2) 加納製作所は、昭和五四年一〇月一日に設立された光学機械器具部品加工等を目的とする資本金二〇〇万円の会社であって、同五九年三月当時の従業員は二十数名であった。同製作所は、昭和五七年五月に被告から本件印刷業務を受注するまで、腕時計針の印刷業務や第二種有機溶剤を使用する業務を行ったことはなかった。

なお、加納製作所は、原告らを含む従業員が多発神経炎に罹患したことが主たる誘因となって、昭和五九年五月末ころ事実上倒産した。

(3) 被告は、加納製作所に本件印刷業務を請け負わせるに当たり、昭和五七年三月二〇日ころから同年四月末ころまで、被告工場内において、主として外注担当係の宮下信一が同製作所の加納達美業務部長ほか五名の従業員に対し、本件印刷業務の作業手順について研修指導した。右研修の際、使用する有機溶剤の取扱いについて、火災防止や節約のための注意はなされたが、被告は、A―ベンジンが家庭用のベンジンとは違って、強い毒性のために予防規則によって第二種有機溶剤に指定されているノルマルヘキサンを主成分とするものであることや有毒性に対する対策の必要性について十分な認識を有しなかったため、右宮下も使用有機溶剤の取扱上の注意事項や人体に対する影響について指導しなかった。

右宮下は、本件印刷業務の発注後約一か月間は毎日、その後は昭和五七年九月まで一週間に二日程度、日程管理及び品質管理の指導のために加納製作所に赴いていたがA―ベンジンの取扱い等について指導しなかった。

また、被告の高山忠志製造課長(当時)も加納製作所の旧工場を数回訪れたことがあるが、同人も同製作所にA―ベンジンの取扱い等について指導したことはなかった。

(4) 被告が加納製作所に本件印刷業務を請け負わせるに当たり、当時岡谷市長地四九四〇番地七に所在した旧工場を右業務に適した作業環境にするよう助言、指示したことはなく、ノルマルヘキサンによる中毒防止のための局所排気装置の設置や気積の確保の必要性等について指導したこともなかった。そのため、加納製作所は、天井に換気扇二台を取り付けただけであった。

(5) 被告は加納製作所に対し、本件印刷業務に必要な機械器具、備品、治工具を無償で貸与し、A―ベンジンとインクを支給した(この点は当事者間に争いがない。)。

(6) 昭和五八年九月中旬ころ、加納製作所は、他の下請業務を行うため岡谷市長地四六九三番地一に移転した(新工場)。右移転については、同五七年一〇月から一週間に一日程度、日程管理及び品質管理の指導のために同製作所を訪れていた被告の外注担当係三沢泰夫に事前に連絡したが、被告から新工場を本件印刷業務に適した作業環境にするようにとの助言、指示はなかった。そのため、同製作所は、窓際上部に空調換気扇一台を設置しただけであった。

新工場において本件印刷業務が行われたのは、昭和五八年九月二六日ころから同五九年三月二六日までである。右三沢は、昭和五九年三月まで加納製作所を訪問していたが、その間、同製作所にA―ベンジンの取扱い等について指導したことはなかった。

なお、新工場は、旧工場に比較して若干狭く、天井も低かった。

(7) 加納製作所は、本件印刷業務に使用する有機溶剤が家庭用ベンジンと異種のものであることやそれが人体に対し有害であるために第二種有機溶剤に指定されているノルマルヘキサンを主成分とするものであることを知らず、事業者として請求原因3(一)(1)記載の措置を講じる義務があることも全く認識していなかった。

そのため、同製作所は、旧工場、新工場いずれにおいても、印刷作業台毎に設けるべき局所排気装置を全く設置せず、気積は、一人について一〇立方メートル以上必要であるのに、新工場においては一人について五・九四立方メートルしか確保せず(旧工場においても一〇立方メートル未満)、六か月に一回は行うべきノルマルヘキサン濃度の測定もしなかったし、費用がかかるため、原告らに対し六か月に一回行うべき特殊健康診断も受けさせなかった。

また、同製作所の専務取締役であった加納秀一は、昭和五五年九月に有機溶剤作業主任者の資格を取得したが、同製作所は、同人を本件印刷業務に関する有機溶剤作業主任者に選任したことはなく、同人は、右業務には全く従事しなかった。

(8) 原告らの本件疾病は、加納製作所が局所排気装置を設置せず、気積を十分に確保しなかったなどのために発生したものである。

(証拠略)並びに証人三沢泰夫・同高山忠志の各証言中、右認定に反する部分はたやすく信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  本件印刷業務につき被告と加納製作所とは元請・下請の関係にあり、被告は、右業務を発注するに当たって、被告工場内において、同製作所の従業員に対し右業務の作業手順を研修指導していること、被告の外注担当者は、発注後約一か月は毎日、その後は一週間に一、二日程度日程管理及び品質管理の指導に同製作所に赴いていること、被告は同製作所に対し、本件印刷業務に必要な機械器具、備品及び治工具を無償で貸与し、A―ベンジンとインクを支給したこと、被告は、昭和三九年五月以降ノルマルヘキサンを使用する業務である腕時計針の印刷業務を遂行してきているのに対し、加納製作所は、本件印刷業務を下請けするまで右業務の経験はなく、第二種有機溶剤を使用する業務を行った経験もないことなどの前記認定事実を総合すると、被告と加納製作所とは、本件印刷業務については実質的な使用関係にあるものと同視し得る関係にあったものと認めるのが相当である。そして、A―ベンジンに含有されているノルマルヘキサンは第二種有機溶剤に指定されていて、その取扱いについては法及び予防規則等によって厳格に規制されているのであるから、被告は、ノルマルヘキサンの有害性及びその対策の必要性について十分認識し、本件印刷業務に従事する加納製作所の従業員が被告の支給するA―ベンジンによって中毒症状を起こすことのないよう、同製作所に対し、請求原因3(一)(1)記載の措置を講ずるように指示ないし指導をなすべき注意義務があったものというべきである。

しかるに被告は、ノルマルヘキサンが人体に対し強い毒性を有することやその対策の必要性について気付かないままA―ベンジンを加納製作所に支給し、前記指示ないし指導をしなかったものであって(被告は同製作所に対し、昭和五八年三月七日付けの「特殊健康診断について」と題する文書(証拠略)を交付しているが、その内容からいって、特殊健康診断の法的必要性を指導しているものとは認められない。)、被告の右過失により、同製作所は、本件印刷業務に使用していた溶剤の有毒性やこれに対する対策の必要性についての認識を欠き、局所排気装置を設置せず、十分な気積を確保しなかったなどのために、原告らのノルマルヘキサン吸引による多発神経炎に罹患したのであるから、被告は、民法七〇九条により、原告らが被った損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

被告は、旧工場を本件印刷業務の作業場にすることを取り決めたにもかかわらず、加納製作所は被告に無断で新工場に移転したものであり、移転後の作業環境の悪化が原告らの発病の原因であるから、被告には責任はない旨主張する。

確かに、原告らの本件疾病の発生時期からすると、新工場における稼働中に罹患したものと推認される。

しかし、被告と加納製作所との間において、第二種有機溶剤を使用する業務の作業環境に適応するものとして、旧工場を本件印刷業務の作業場に指定する旨の合意があったことを認めるべき証拠はなく、同製作所は事前に右移転を被告に連絡していることは前記認定のとおりである。そして、前記認定事実によれば、被告は、新工場においても前記指示ないし指導をなすべきであったものというべきである。

よって、被告の右主張は理由がない。

三  原告らの損害

1  原告本間 金一〇一三万九二〇三円

(一) 休業損害 金四九六万九二〇三円

イ (証拠略)の結果によれば、原告本間は、昭和五九年二月当時、日額金三三一八円の賃金を加納製作所より得ていたが、本件疾病により稼働することができなかったため、同年三月六日以降同年五月末日までの賃金合計金二八万八六六六円の支払いを受けられなかったことが認められる。

ロ 現実に稼働することができなくなった直前まで就労して賃金を得ていた場合には、休業損害は現実に得ていた賃金を基準とし、年毎に民間企業の賃上げ率を参考にしてこれを加算したものをもって算定するのが相当であると解する(賃金センサスを基準とすることは相当ではない。)。

原告本間本人尋問の結果によれば、原告本間は、昭和五九年六月一日から平成二年三月末日までの間、労務に服することができず無職であったことが認められるところ、同原告は、日額金三三一八円(月額金九万九五四〇円)の賃金を得ていたから、年毎の賃上げ率を四パーセント(労働省労政局の調査による中小企業の賃上げ率を参考としたもの)として、右期間の休業損害を算定すると、合計金七八〇万三〇一〇円となる(内訳は、昭和五九年六月から同年一二月まで金六九万六七八〇円、昭和六〇年一月から同年一二月まで金一二四万二二五〇円(一〇円未満切捨て)、昭和六一年一月から同年一二月まで金一二九万一九四〇円、昭和六二年一月から同年一二月まで金一三四万三六一〇円、昭和六三年一月から同年一二月まで金一三九万七三五〇円、平成元年一月から同年一二月まで金一四五万三二四〇円、平成二年一月から同年三月まで金三七万七八四〇円)。

ハ 原告本間が、右休業に対応する期間、労働者災害補償保険法によって合計金三一二万二四七三円の給付を受けていることは自陳するところである。

ニ 右イ及びロの合計金額からハの金額を差し引くと、金四九六万九二〇三円となる。

(二) 慰謝料 金四〇〇万円

本件疾病の内容・程度、入・通院の状況等本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告本間の精神的苦痛に対する慰謝料は四〇〇万円が相当である。

(三) 入院雑費 金一七万円

原告本間が諏訪湖畔病院に入院した期間は前記認定のとおりであり(一七〇日間)、入院雑費は一日当たり金一〇〇〇円が相当である。

(四) 弁護士費用 金一〇〇万円

本件事案の内容、審理の経過、認容額等を考慮すると、原告本間が被告に対して弁護士費用の損害として請求できる金額は金一〇〇万円と認めるのが相当である。

2  原告今井 金八一一万〇九二二円

(一) 休業損害 金三七三万四九二二円

イ (証拠略)の結果によれば、原告今井は、昭和五九年三月当時、日額金二八〇八円の賃金を加納製作所より得ていたが、本件疾病により稼働することができなかったため、同年四月二日から同年五月末日までの賃金合計金一六万八四八〇円の支払いを受けられなかったことが認められる。

ロ 原告今井本人尋問の結果によれば、原告今井は、昭和五九年六月一日から平成二年三月末日まで労務に服することができず無職であったことが認められるところ、同原告は、日額金二八〇八円(月額金八万四二四〇円)の賃金を得ていたから、賃上げ率を四パーセントとして、右期間の休業損害を算定すると、合計金六六〇万三六四〇円となる(内訳は、昭和五九年六月から同年一二月まで金五八万九六八〇円、昭和六〇年一月から同年一二月まで金一〇五万一三一〇円、昭和六一年一月から同年一二月まで金一〇九万三三六〇円、昭和六二年一月から同年一二月まで金一一三万七〇九〇円、昭和六三年一月から同年一二月まで金一一八万二五七〇円、平成元年一月から同年一二月まで年一二二万九八七〇円、平成二年一月から同年三月まで金三一万九七六〇円)。

ハ 原告今井が、右休業に対応する期間、労働者災害補償保険法によって合計金三〇三万七一九八円の給付を受けていることは自陳するところである。

ニ 右イ及びロの合計額からハの金額を差し引くと、金三七三万四九二二円となる。

(二) 慰謝料 金三五〇万円

本件疾病の内容・程度、入・通院の状況等本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告今井の精神的苦痛に対する慰謝料は三五〇万円が相当である。

(三) 入院雑費 金一二万六〇〇〇円

原告今井の入院期間は前記認定のとおりであり(一二六日間)、入院雑費は一日当たり金一〇〇〇円が相当である。

(四) 弁護士費用 金七五万円

本件事案の内容、審理の経過、認容額等を考慮すると、原告今井が被告に対して弁護士費用として請求できる金額は金七五万円と認めるのが相当である。

3  原告林 金一三六万九七三三円

(一) 休業損害 金一八万九七三三円

(証拠略)の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告林は、昭和五九年三月当時、日額金三九八六円の賃金を加納製作所より得ていたが、本件疾病により同年四月七日から同年一二月四日まで(二三八日間)稼働することができなかったこと、同原告は、右期間、労働者災害補償保険法によって右賃金の八〇パーセントに相当する金員の給付を受けていることが認められるから、休業損害は金一八万九七三三円となる。

(二) 慰謝料 金一〇〇万円

本件疾病の内容・程度、入・通院の状況等本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告林の精神的苦痛に対する慰謝料は一〇〇万円が相当である。

(三) 入院雑費 金六万円

原告林が諏訪湖畔病院に入院した期間は前記認定のとおりであり(六〇日間)、入院雑費は一日当たり金一〇〇〇円が相当である。

(四) 弁護士費用 金一二万円

本件事案の内容、審理の経過、認容額等を考慮すると、原告林が被告に対して弁護士費用の損害として請求できる金額は金一二万円と認めるのが相当である。

六  よって、原告らの本件損害賠償請求は、被告に対し、原告本間が金一〇一三万九二〇三円、原告今井が金八一一万〇九二二円、原告林が金一三六万九七三三円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年一〇月一〇日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は失当である。

第二平成二年(ワ)第一一〇号事件

被告が求める債務不存在確認は、昭和六一年(ワ)第一二〇号事件にかかる損害賠償請求を判断するうえで先決関係に立つものとはいい得ないから、本件中間確認の訴えは不適法である。

ところで、右訴えは反訴の要件は備えているので、反訴として適法と認め、本案につき判断するのが相当であると解すべきところ、前記第一で認定、説示したとおり、原告らの訴えの変更は適法であり、被告は前示損害賠償債務を負担すべきであるから、被告の債務不存在確認請求は理由がない。

第三結論

よって、昭和六一年(ワ)第一二〇号事件につき、主文一項1記載の限度で原告らの請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却し、平成二年(ワ)第一一〇号事件につき、被告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、仮執行免脱宣言については、相当ではないから付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 濵崎浩一)

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